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名古屋地方裁判所 平成11年(ワ)3675号 決定

主文

一  本件補助参加の申出を却下する。

二  本件補助参加申出に対する異議により生じた手続費用は補助参加申出人の負担とする。

理由

一  本件補助参加の申出の理由は、本件訴訟(株主代表訴訟)の争点は、補助参加申出人の第四八期(平成七年一月一日から同年一二月三一日まで)及び第四九期(平成八年一月一日から同年一二月三一日まで)決算の適否、法人税等の過払の有無、商法二九四条により裁判所が選任した検査役の報酬の支払による損害の有無、第四九期決算における利益配当の適否の四点に大別されるところ、右のうち検査役の報酬支払以外の争点については、補助参加申出人の取締役会の意思決定そのものの適否が重要な争点として争われるものであって、実質的には補助参加申出人と原告株主とは利害が相反することになること、判決理由中の判断であっても、補助参加申出人は自らの意思決定を違法と判断されないことにつき独自の利益を有すること、右争点のうち検査役の報酬支払については、検査役の選任は結果として無意味であったから、原告は補助参加申出人に選任費用を賠償する義務を負うこと、これらを言うのである。

これに対して、原告は、本件訴訟においては、補助参加申出人と被告取締役らは利益相反的立場にあるから、補助参加申出人が被告取締役ら側に補助参加することは本来認められないこと、本件訴訟における原告の請求は何ら不当なものでないことを主張して、右補助参加の申出に対し異議を述べた。

二1  民訴法四二条による補助参加の要件である「訴訟の結果について利害関係を有する」とは、本案判決の主文で示される訴訟物たる権利ないし法律関係の存否自体についての判断が補助参加人の法律上の地位に影響を及ぼす場合を意味するのであって、判決理由中で判断される事実の存否についてのみ利害関係を有するにすぎない場合には、仮に理由中の判断が重要な争点に関する判断であってこれにより第三者の法的地位ないし法的利益に一定の影響がある場合であっても、右の要件を満たさないものと解するのが相当である。

そして、本案判決の主文における判断につき法律上の利害関係を有するというためには、主文で示される訴訟物についての判断との関係において、補助参加申出人と被参加人が実体法上の利害を共通にし、被参加人が当該訴訟において勝訴判決を受けることにより補助参加申出人も利益を受ける関係にあることが必要であると解される。

2  ところで、株主代表訴訟には、被告取締役に対する会社の訴権を株主が代位行使するという側面の他、経済的、実質的には、株主による会社の業務執行に対する監督是正という観点から株主全体の利益を代表して提起するという側面があることは否定できないところ、商法は、馴合訴訟の弊害を防止する趣旨から取締役の責任を追及する訴えに会社が訴訟参加することを原則として認めており(商法二六八条二項)、また、代表訴訟に対する会社の訴訟参加を容易にするため、株主代表訴訟を提起した株主に訴え提起後遅滞なく会社に対し訴訟告知を義務づけていること(同条三項)、株主代表訴訟の本来の目的が株主による取締役らの職務執行の監督是正にあり、しかも会社側による自発的な是正措置が期待できない場合に機能するものであること、これらを考慮してみると、商法二六八条二項に基づき会社が原告株主側に訴訟参加するのではなく、被告取締役側へ補助参加することは、株主の右監督是正機能を減殺することにも繋がりかねず、株主代表訴訟の制度趣旨に反するものというべきであって、これを消極に解するのが相当である。

3  なお、補助参加申出人は、前記のように、会社は自らの機関である取締役会の意思決定の適法性を確認するという点で補助参加の利益を有する旨主張しており、本件訴訟におけるように当該会社の意思決定そのものの適否が重要な争点となる場合において、会社が右意思決定を正当として取締役の責任を否定する立場に立つときは、会社の意思決定の適法性について判決理由中で判断がなされることにつき補助参加申出人が一定の利益を有することは否定できない。

しかし、判決理由中の判断についてのみ法律上の利害関係を有する場合でも補助参加できるという立場には前示のとおり左袒できないうえ、本件訴訟における審理の結果、右意思決定が違法であったと認定される可能性もあるのであり、その場合には、当該会社が原告株主側に補助参加することが株主全体の利益になるのであるから、株主代表訴訟提起の時点または補助参加申出の時点においては、被告取締役側に補助参加することが常に会社の利益になるとは断じられない。

したがって、会社の意思決定の適法性を確認するという点を理由に補助参加の利益を肯定することはできないものと解される。

三  本件訴訟は、被告らが補助参加申出人の取締役としての忠実義務に違反し、(1)補助参加申出人の第四八期及び第四九期決算においていわゆる粉飾決算を指示しあるいはこれを見逃し、(2)税引前利益を粉飾したことにより法人税、住民税等を過払いし、(3)補助参加申出人の業務執行に関し被告らに不正の行為を疑うべき事由があったため、商法二九四条により選任された検査役に報酬を支払い、(4)第四九期決算において実際は多額の営業損失が存在するにもかかわらず営業利益の粉飾を指示しあるいはこれを見逃して、株主に利益配当をし、これら(1)ないし(4)により合計二億三一三〇万五二〇〇円の損害を補助参加申出人に与えたとして、補助参加申出人の株主である原告が、補助参加申出人の被告取締役らに対し、補助参加申出人のために、取締役の責任を追及する株主代表訴訟である。したがって、本件訴訟における訴訟物は、被告らの補助参加申出人に対する忠実義務違反に基づく損害賠償請求権及び遅延損害金請求権である。

そして、本件訴訟において、原告勝訴の判決が確定した場合には、右の補助参加申出人の被告らに対する損害賠償請求権の存在が確定するのであるから、法律上補助参加申出人に有利な結果となるのに対し、被告ら勝訴の判決が確定した場合には、右請求権の不存在が確定するのであり、法律上補助参加申出人に不利な結果となる。したがって、本件訴訟の主文で示される訴訟物についての判断との関係では、補助参加申出人は被告らと実体法上の利害が相反し、対立することが明らかであるから、法律上の利害を共通にするとは認められない。

四  よって、本件補助参加の申出は理由がないからこれを却下することとし、異議により生じた手続費用の負担について民訴法六六条、六一条を適用して、主文のとおり決定する。

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